漢方の基本概念  その1

 

 

 

証の概念

 

 

とは患者が現時点で現わしているいる症状を気血水、陰陽・虚実・寒熱・表裏・五臓・六病位などの基本概念を通じて認識し、さらに病態の特異性を示す症状をとらえた結果を総合して得られる診断であり、治療の指示である。

 

証は疾患や症状の概念とは異なり、病気に対する体全体の反応パターンである。

 

漢方医学では不快な自覚症状や身体に現れた症候を治療の目標となる病的状態のパターンとして捉え、治療法を決定します、これを随証治療といいます。

 

隋証治療では、最終的な漢方的診断と処方の漢方的適応病態を突き合わせ、適応処方を決定します。このことを方証相対といいます。

 

 

西洋医学では、まず病変部や検査異常に着目して診断病名をつけて、次いでこれに基づいて治療法を決めるという流れになります。

 

一方、漢方医学では、病名よりも患者に現れている漢方的病態を判断することに重点をおき、診断というプロセスを取らずに、治療法を決定します。

 

西洋薬は一種類の化合物からなり、その作用点も原則的に一箇所に限られます。それに対して、漢方薬は多成分系であり、複数の症候である証を目標に用います。

 

 

基本理論

 

 

漢方医学では、心身のアンバランスを測るものさしとして、陰陽、気血水、六病位、五臓という概念を用います。

 

  • 陰陽は新陳代謝の盛衰を示しています。陰陽は虚実・寒熱・表裏を包括する上位概念で、虚実は抵抗力・反応力の強弱、寒熱は自他的な冷えや熱、表裏は体表面から身体深部までの部位を示す尺度です。
  • 気血水とは、身体を構成する三大要素です。気の失調として、気虚・気滞・気逆の3つ、血の失調として、血虚・お血の2つ、水の失調として、水滞の1つ、合計6つに分類します。
  • 六病位とは、病気の進行状況を示す概念で、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病の6つのステージがあります。
  • 五臓とは肝、心、脾、肺、腎の5つを指します。

 

 

 

 

陰陽と虚実・寒熱・表裏

 

 

陰陽

 

漢方医学には虚実・寒熱・表裏の概念があり、陰陽はこれらの上位概念にあたり、多くの病態は陰-寒-虚、陽-熱-実というカテゴリーに属しています。

 

感覚的に陽は明るい、温かい、活発、積極的、開放的、乾燥というイメージが有り、反対に陰には暗い、寒い、不活発、消極的、閉鎖的、湿潤といったイメージがあります。

 

身の回りにも陰陽の考え方を基盤にした対極的な物の捉え方を随所に見ることができます。これを陰陽二元論といいます。

 

 

陰陽の概念は絶対的ではなく、常に何かと比較した相対的なものです。

 

  • 陰症とは新陳代謝が衰え、身体における熱産生が低下している状態で、寒がりで、温的刺激を好む傾向があります。高齢者などの、体力が低下した人が病気に罹患したときは陰証を呈することが多くなります。
  • 陽症とは新陳代謝が旺盛で、熱産生も亢進している状態で、暑がりで、冷水を好む傾向にあります。小児や体力が充実した人が病気に罹患すると、陽証になりやすい。

 

 

 

 

虚実

 

 

虚実の基本的な概念として、虚は中が虚ろなこと、実は中が充満していることであり、漢方医学では、一般的に虚実や実証を体力の低下・充実を基礎とした、抵抗力・反応力の不足・充実のこととしています。

 

これを闘病反応から見ると、闘病反応の弱いものが虚証、強いものが実証ということになります。また、中間的な反応を呈する場合を虚実中間証と表現します。

 

普段の体力や体質の強弱は、病気になった場合の闘病反応の強弱・虚実と相関することが多いため、虚実を判定する際の重要な指標となります。

 

普段の体力が充実しているものは、闘病反応が強く現れます。体質虚弱の者は闘病反応あ弱くなりやすいといえます。体力や体質の強弱は、重要な物から重要でないものまであり、消化機能の強弱が最も重視すべきポイントとなります。

 

証は生体と病邪との相互作用による病態です。生態に強い刺激が加わると、生体は体力を動員して強く反応します。

 

虚実は病人全体の病態を示す以外に部位別に評価する場合が有ります。例えば、五臓のそれぞれに用いたり、気血水の病態に使うことがあります。

 

実証に対し、亢進した機能を抑制したり、過剰物質を排除したりする治療法を潟法と呼び、過剰な反応を抑えることで病人を病気から回復させる。

 

一方、虚証に対し、不足している物を補う治療法を補法という。

 

 

寒熱

 

寒熱は体温の高低ではなく、自他覚的なもの、あるいは症候から判断されます、機能が低下して不活発なものは寒証、その逆は熱証を呈すると考えられます。

 

漢方医学では、病状が寒なのか熱なのか判断することは、虚実の判断とともに重要なことです。

 

 

表裏

 

 

表裏とは闘病反応の起きている部位を表します。表は身体表層部で、皮膚、皮下組織、表位筋肉、四股、頭部、鼻、間節などがそれに属します。裏は身体深部で、消化管や腹部内臓などを指します。半表半裏は表と裏の間という意味で使用されます。例えば、気管支、肺、横隔膜周囲などを示します。

 

  • 表証は、熱性疾患の初期の悪寒・発熱・頭痛・咽頭痛・鼻汁・鼻閉・項背部のこわばりと痛み、四股の関節痛や筋肉痛など、表に限局した闘病反応を指します。
  • 裏証は腹満・下痢・便秘などの消化器症状だけでなく、稽留熱、身体深部の熱感、せん妄などの精神病状も包含します。
  • 半表半裏証は闘病反応が表と裏の間にあることを示す症候で、例えば、咳払い・胸内苦悶感などの胸部症状・悪心・嘔吐・口の苦み・粘つき・李肋部痛などの上腹部症状、胸脇苦満、往来寒熱が相当します。

 

 

 

 

六病位

 

漢方医学では、病状の進行と症状を時間経過で捉える考え方があります。急性熱性疾患、いわゆるかぜを詳細に観察すると、段階的に進行するストーリーがあり、その過程を、正気と病邪との関連から6つのステージに分けて論じています。

 

すなわち、病の進行には太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病のステージがあり、六病位とよびます。

 

  • 太陽病とはかぜのひきはじめなどの病期で、病状所見が体表部にとどまり、悪寒、発熱、頭痛、咽頭痛、鼻汁、関節痛、筋肉痛、項背にかけての筋肉の強ばりなどの症状がでます。

     

    太陽病には虚証と実証があり、虚証では汗が自然と漏れ出てくる自汗がみられます。一方実証では無汗であることが特徴です。

  •  

  • 少陽病とは、かぜをこじらせ、食物の味が不味く、食欲が低下した状態で、口の苦み・粘り・食欲不振・舌白苔、往来寒熱などが現れます。
  •  

  • 陽明病は、病変が完全に身体深部に移り、高熱が持続する状態で、便秘、高熱持続、腹部膨満、口渇、せん妄などの症状がでます
  •  

  • 太陰病は、消化管を中心に機能が衰え、気力と体力が低下した状態で、下痢、腹痛、全身倦怠感、食欲不振があります。
  •  

  • 少陰病は、さまざまな臓腑の機能がより低下し、倦怠感が強まった状態で、強い倦怠感、気力低下、身体の冷え、未消化の下痢、真寒仮熱が見られます。
  •  

  • 厥陰病とは、冷えが身体深部まで及び、諸臓腑機能が著しく低下した状態で、重篤な意識レベル低下、呼吸困難、持続性下痢が特徴です

 

 

 

傷寒の発症と進展

 

健康な状態では、免疫抵抗力や防御機能である正気によって病邪は体表面から侵入することができません。

 

しかし、インフルエンザウイルスのような強力な攻撃力を持つ病邪だったり、身体の免疫抵抗力が低下したりした状態では、病邪は容易に体表面から侵入する。

 

若年者や体力が充実した人など、元々新陳代謝が旺盛な人では、身体に熱感発熱の前兆である悪寒や悪風、頭痛、筋肉痛、関節痛などの症侯が現れます。

 

脈は浮が原則です。これらは闘病反応の場が表にあることを示していて、表証と呼ばれ、この病位が太陽病になります。葛根湯を中心に、麻黄湯や桂枝湯で治療します。

 

一般には太陽病を発症して数日で少陽病に移行します。はじめに出現する少陽病は口の苦みや口の粘つきです。

 

典型例では、熱型は悪寒とともに体温が上昇し、熱感の出現とともに体温上昇が治まってくる往来寒熱に変化し、この悪寒と熱感が交互に去来します。

 

 

往来寒熱と同時に胸脇苦満がみられるのも特徴です。脈は沈脈で、弦脈あるいは細脈になることが多く、舌には白苔が出現し、口内に苦みを感じたり、味の変化がみられたりし、食欲は低下し、時には吐気を覚えることがあります。

 

咽喉の乾燥感やめまい感、耳閉感などが出現することがあります。治療は小柴胡湯を中心とします。通常の風邪は太陽病か少陽病で治癒します。

 

若年層は新陳代謝が盛んなため、発熱性疾患にかかった場合、太陽病で発症して、多くの場合数日で少陽病になります。しかし、高齢者や虚弱者では陰証を呈しやすく、少陰病で発症することが多く、麻黄附子細辛湯などで治療します。

 

実際の臨床では、太陽病の後で、陽明病になるなどさまざまな経過をたどります。そして病が治らずに遍延すると生体は陰の状態に陥り、陰病に陥り、最終的には厥陰病に至ります。

 

 

 

気血水

 

 

  • 気は、目で見ることができず、何らかの機能を持った無形のエネルギーであり、生命活動においては精神活動を含めた機能的活動を統括する役割をする。
  • 血は、気の働きを担って生体を巡る赤色の液体で、血液だけではなく、全身の栄養状態などにも関与します。
  • 水は、気の働きを担って生体を潤す無色の液体で、体液だけでなく、水分代謝などにも関連しています。

 

健康な状態では、これら3つの要素が過不足なく、滞ることなく、関連しあって身体を巡っていると考えます。しかし、いずれかの要素が一つでも過不足や停滞を生ずると、身体や精神にさまざまな病状となって現れます。

 

血や水は、上位概念としての気の制御を受けていることから、精神的な要素と身体的な要素な機能態として認識されています。すなわち、血や水の失調には、多くの場合、気の失調も連動しています。

 

    気には、元気・気力としての生命エネルギー、気持ち。気分としての精神や心、空気・気体としてのガスの性質があり、相互に密接に関連しています。

     

     

    血の失調には、血が量的に不足する血虚と、血の流れが滞るお血の2つの病態があります。

     

    水の失調については、身体における水分が量的、あるいはその分布に異常をきたした病態をまとめて水滞あるいは水毒といいます。

 

 

五臓

 

漢方医学では、人体の機能を5つに分け、肝、心、脾、肺、腎の五臓とする考え方があります。

 

ただし、五臓は西洋医学の臓器と名称が同じであっても、形態的および機能的にその実態は全く別物です。

 

特に脾は西洋医学における脾臓とは無関係で、消化吸収と関連し、消化管や膵臓に近い概念です。

 

万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなり、それらは互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し循環するという考えです。肝は木、心は火、脾は上、肺は金、腎は水に属します。

 

腎虚とは、一般的には成長。老化に関連する症状や下半身の機能低下のことを指し、具体的な症状としては、排尿の異常、口渇多飲、浮腫、生殖機能の低下、腰痛、難聴、視力低下、呼吸機能低下などが挙げられます。

 

五臓としての脾は消化管とその機能を表します。したがって、脾虚とは、消化機能の低下と言い換えることができ、食欲不振、膨張感、悪心、食後の眠気、慢性下痢などの消化器症状と体力。気力の低下を特徴とします。

 

肝の失調の状態としては、神経過敏の状態で、イライラして怒りを発しやすいこと、筋肉が緊張してピクピクと痙攣しやすいなどが挙げられます。