抑肝散

抑肝散

 

 


 

抑肝散の解説

 

抑肝散は元々小児の夜泣きに使用されていましたが、現代では精神的興奮や認知症に関連する諸症状にも応用されるようになった漢方薬です。陽証、虚証、熱症、裏証、気滞、気逆、血虚に用いる漢方薬で、気を巡らせて精神的興奮を抑える作用が有ります。

 

漢方薬の肝は肝臓の肝とは意味が異なり、感情や自律神経系機能、眼・筋肉の機能、体内血液分布の調節など複数の機能を包含する概念です。

 

抑肝という表現は、肝の機能異常、機能失調を調整するという意味が有ります。

 

よって抑肝散は、肝の機能異常のために引き起こされたいらだち、筋痙攣などの諸症状に用いる漢方薬という意味が有ります。

 

 

抑肝散の原材料

 

抑肝散は、釣藤鈎、柴胡、当帰、川きゅう、じゅつ、ぷくりょう、甘草の7種類の生薬で構成されています。

 

  • 釣藤鈎は、アカネ科、カギカズラの通例トゲで、アルカロイドのリンコフィリンなどを含み、精神的興奮を覚えます。
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  • 柴胡は、セリ科ミシマサイコの根で、サポニンであるサイコサポニンなどを含み、抗炎症作用や肝機能改善作用などを持ち、気を巡らせて、興奮や不安を軽減させます。
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  • 当期は、セリ科トウキまたはホッカイトウキの根で通例、湯通したものです。精油成分リグスチリドなどを含み、血を補い、巡らせる作用が有ります。
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  • 川きゅうは、セリ科センキュウの根茎を通例、湯通ししたもので精油成分リグスリチドなどを含みます。駆お血作用があります。
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  • は白朮はキク科オケラまたはオオバナオケラの根茎で、精油成分のアトラクチオンなどを含み、補脾胃、利水の作用があります。
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  • ふくりょうは、サルノコシカケ科マツホドの菌核で、トリテルペノイドであるパキマ酸などを含み、利水、補脾胃、鎮静などの作用が有ります。
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  • 甘草は、マメ科のウラルカンゾウまたはスペインカンゾウの根およびストロンで、トリテルペン配糖体のグリチルリチンなどを含み、抗炎症作用、抗潰瘍作用、止痛作用などがあり、補脾胃、さらに各種生薬の作用や毒性を緩和して処方としてまとめる役割もあります。

 

 

抑肝散が処方される症状

 

  • 抑肝散は、肝の機能異常で起こる症状に対し使用されます。
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  • 精神的にイライラ・興奮しやすく、神経過敏など感情や感覚異常がある。
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  • 胸のもやもや感、心か部の自律神経系機能に関連すると思われる症状
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  • 眼の痙攣や噛みしめ、腹直筋の緊張、四肢のこわばりや拘げきなど、眼・筋肉の機能に関連する症状が有ります。
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  • 抑肝散は虚弱者にストレスがかかり、イライラ、腹満、不眠になる状態に効く漢方薬になります。

 

 

抑肝散の適応

 

適応は、虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児かん症です。

 

 

抑肝散の作用

 

作用は、苛立ち、興奮、不眠、小児の夜泣き、筋痙攣などを抑制、認知症に伴う行動・心理症状のうち興奮、妄想、幻覚などの症状を抑制、脳内セロトニン神経系、グルタミン酸神経系を介した薬理作用などが報告されています。

 

 

抑肝散の副作用

 

副作用は、甘草含有製剤であり、低カリウム血症に注意が必要となります。

 

 

抑肝散の効果

 

臨床研究では、幻覚、興奮/攻撃性、焦燥感/被刺激性、異常行動で介入により改善が見られ、睡眠障害では改善傾向という結果でした。

 

薬理作用については、グルタミン酸神経系とセロトニン神経系への作用による情動調節があります。

 

抑肝散が処方された症例 1

 

女児が落ち着きがない

 

 

漢方的所見

 

  • 望診:やや痩せ型、眼瞼痙攣、そわそわして落ち着きがない
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  • 問診:癇癪もち、寝つきが悪い
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  • 舌診:舌質は色調淡紅、舌尖紅、腫大なし、歯根なし、舌苔は白やや厚、舌下の静脈は怒張なし
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  • 脈診:やや弦
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  • 腹診:腹力やや軟、胸脇苦満軽度あり、心下振水音なし、左腹直筋の緊張あり、腹部動悸なし、小腹不仁なし、臍傍圧痛なし、小腹急結なし

 

 

 

西洋医学的診断

 

適応障害

 

 

 

漢方医学的考察

 

現在の生活環境です。弟が生まれたことによる赤ちゃん返りの時期に、幼稚園での環境変化によるストレスが加わっています。そのため感情がコントロールできなくなった状態と思われます。やや痩せ型で食が細くて軟便傾向ということで虚証と考えます。

 

癇癪もち、落ち着きのなさ、眼瞼痙攣といった症状は気逆の存在を示唆します。舌診では、舌尖の紅みは気逆を示唆し、やや厚い白苔は軽度の熱証あるいは水滞で診られる所見です。脈診では、やや弦は肝胆の失調を示します。腹診では、腹力やや軟は虚証傾向を示します。胸脇苦満と左腹直筋の緊張は肝の気滞をあらわし柴胡剤の適応となります。以上により、漢方診断としては抑肝散証ということになります。

 

 

経過

 

女児に抑肝散を1日2回成人常用量の3分の1で、母親に抑肝散加陳皮半夏1日2回常用量で処方したところ、服用開始1週間後には女児は癇癪を起すことが減ってきて眼瞼痙攣も消失しました。寝つきも徐々に良くなっていきました。2ヶ月後には女児の赤ちゃん返りも治まり、機嫌よく幼稚園に行くようになったので抑肝散を1日1回に減量し、さらに1ヶ月間服用した後に内服終了となりました。

 

 

症例 2 女児の母親

 

情緒不安定、いらいら

 

 

漢方的所見

 

  • 望診:やせ型、神経質な感じ
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  • 問診:イライラ、頭痛、繰り返すこむら返り、胃もたれ、食欲低下
  •  

  • 舌診: 舌診は色調紅、腫大軽度、歯痕あり、舌苔は白厚、舌下の静脈は怒張なし
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  • 脈診:沈、細、弦
  •  

  • 腹診:腹力やや軟、胸脇苦満あり、心下振水音あり、腹直筋の緊張なし、臍上悸あり、小腹不仁なし、臍傍圧痛なし、小腹急結なし

 

 

西洋医学的診断

 

適応障害

 

 

漢方医学的診断

 

生活環境としては、長男の夜泣き、長女の赤ちゃん返りなどで育児のストレスが高まってきています。夫が育児に必ずしも協力的ではないことがストレスを増強させているようです。痩せ型で軟便傾向ということで虚証と考えられます。
イライラ、頭痛は気逆、繰り返すこむら買えりは血虚の所見です。胃もたれ、食欲低下は脾胃気虚を示します。

 

舌診では、色調紅は気逆、腫大、歯痕、厚い白苔は水滞で見られる所見です。脈診では、沈は裏証、細は気血両虚証
弦は肝胆の失調を示します。腹診では腹力やや軟は虚証傾向を示します。心下振水音は水滞、胸脇苦満と臍上悸は慢性的な肝の気滞を示します。以上により、漢方診断としては抑肝散加陳皮半夏証ということになります。抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に脾胃気虚を改善する作用を有する陳皮と半夏を加えた漢方薬です。

 

 

経過

 

母親に抑肝散加陳皮半夏1日2回常用量で処方したところ、2週間後の外来受診時にはいらいらや頭痛は軽減していきました。こむら返りも起きなくなりました。1ヶ月後の外来受診時には母親の食欲は回復していました。その後はよく眠られるようになり、体調の良い状態が続き、さらに1ヶ月間同処方内服を続けた後に内服終了としました。

 

 

抑肝散について

 

肝は怒りの感情と関連し、肝が過度になると、神経の高ぶり、いらいら、過緊張が生じます。抑肝散はそれらを抑える効果があるため肝を抑える薬と命名されました。

 

抑肝散は元々小児の夜泣き、疳の虫に適応があり、精神的な緊張状態・不穏状態に対して効果のある漢方薬です。近年m認知症患者の暴力や暴言、幻覚、妄想、せん妄、失禁などの行動・心理症状を緩和する薬として用いられ、エビデンスも集積されています。