葛根湯
葛根湯の解説
葛根湯が適応となるのは、六病位の概念では急性熱性疾患の病初期の状態を示す太陽病となります。かぜを例にあげると、初期に認める頂背部のこだわりや頭痛、悪寒が太陽病に合致する症候です。
また、この時期における状態を陰陽、虚実、寒熱、表裏の概念でとたえると、発熱過程として発汗が無くぞくぞくと寒気を感じている状態は実証、発熱を伴い顔が赤くなるには熱証であると考えられます。脈診では浮となり表証となります。これらの状態を総括すると陽証に分類されます。
葛根湯の原材料
葛根湯は、麻黄、桂皮、生姜、葛根、しゃく薬、大そう、甘草の7つの生薬からなります。発熱の過程で熱産生に向かうための悪寒を伴う病態に対し、温めて発汗させる生薬(麻黄、桂皮、生姜)と、冷ましつつ発汗させる生薬の漢方を含んでいます。
これに加え、発汗過多をきたした場合に生じうる潤い不足に対して、比較的熱を取り除く作用があり、かつ潤いを補う作用を有するしゃく薬も含まれます。しゃく薬には筋肉の痛みを緩和する効果もあります。
葛根にも頂部の筋肉を緩める作用と潤いを保つ作用があり、発汗とその行き過ぎを是正する成分を含んだバランスのよいかぜ薬といえます。
葛根湯を処方した症例
中年女性、悪寒、頭痛、鼻水
漢方的所見
- 望診:中肉中背、無汗
- 問診:悪寒、微熱、頭痛、肩こり、鼻汁
- 舌診:舌質は色調淡紅、腫大なし、歯痕なし、舌苔は白色薄、やや乾燥、舌下の静脈は怒張なし
- 脈診:浮、緊
- 切診:頂背強
- 腹診:腹力中等度、胸脇苦満なし、心下振水音なし、腹直筋の緊張無し、腹部動悸なし、小腹不仁なし、臍傍圧痛あり、
- 小腹急結なし
西洋医学的診断
初期の感冒
漢方医学的考察
悪寒、頭痛、鼻汁は感冒の症状です。発熱につながる悪寒が明らかで発病から間もない時期で六病位では太陽病の段階と考えます。舌診では、特に異常所見を認めません。脈診では浮は表裏では表証、緊は寒邪の侵襲を示唆します。頂背のこわばりは葛根湯の使用目標になります。腹診では眼力中等度は虚実中間証を示します。以上により、漢方診断としては葛根湯証になります。
経過
その場で葛根湯1回分を白湯に溶かして服用しました。背中がぽかぽかしてきたため。1時間後にもう1回分追加したところ、身体はさらに温まり汗が出始めました。さらに2時間後にもう1回分内服し、汗がしっかり出て解熱しました。肩こりもほぐれてスッキリしたとのことでした。鼻汁も治まりました。その後も、肩こりが強くて頭が重たい時は葛根湯エキス顆粒12回分を白湯に溶かして服用するよう処方しました。